竹鶴アンバサダーと考える
北海道流、大人酒の愉しみ。
<後編>

PICK UPピックアップ

竹鶴アンバサダーと考える
北海道流、大人酒の愉しみ。
<後編>

#Pick up

野田浩史さん from「オーセントホテル小樽 キャプテンズ・バー」

竹鶴氏に姿勢にならい、バーテンダーとして酒を提供するだけでなく地元の素材にこだわった町おこしや北海道発の酒文化の振興に尽力する。「竹鶴アンバサダー」の故郷と酒への思いとは。

文:Ryoko Kuraishi

野田さんのシグネチャーカクテル「ノスタルジア」。竹鶴氏に敬意を表し、ベースは「ブラックニッカ クリアブレンド」。グラスの表面についた霜と粉砂糖、生クリームで、北海道の冬らしい「3つの雪」を表現した。

「オーセントホテル小樽」のチーフバーテンダーにして、竹鶴アンバサダーとして忙しい日々を送っている野田浩史さん。
バーテンダーとしてカウンターに立つ傍ら、一般社団法人ホテルバーメンズ協会(以下、HBA)の理事として若手バーテンダーの指導を行い、観光専門学校で講師を務め後進の養成にあたっている。


ここ数年は北海道産の野菜をテーマにしたカクテルコンペディションを立ちあげ、その運動を全国展開すべく各地を飛び回っている。
もともとは2年前、とある飲料メーカーが「道産野菜を使ったカクテルフェア」というコンテンツを野田さんに打診してきたことがきっかけだったとか。


一度は断ったという野田さんだが、もともと北海道産の食材でツイストしたカクテルを「キャプテンズ・バー」で提供していたこともあり、道産野菜×カクテルにフィーチャーした新たな試みに挑戦することになる。

8月に開催された「北海道産農産物を使った全国カクテルコンクール2014」。今年は一般人が出場できる部門を新設、協賛会社も増え地元からの注目も高まった。

「カクテル文化の発展と北海道の魅力を提案するため、私どものバーでは季節の道産フルーツを使った北海道限定カクテルはよく提案していたんです。


とはいえ、フルーツに比べて野菜は搾汁量が少ないし事前の下ごしらえに時間がかかるため、カクテル向きの素材ではない。
かといってミクソロジーなど最新のテクニックを使って野菜をまったく別のものに変えてしまうのは、北海道人としての誇りが許さなかった。


さらには、コンテンツとしての弱さも感じました。
身内のバーテンダーが所属するホテル・バーでカクテルフェアを行うことは可能ですが、お客さまに実際に足を運んでいただき、カクテルを飲んでもらうためには『カクテルフェア』より一歩踏み込んだアクションが必要だと感じたんです」


お酒を知らない人にまで野菜カクテルを認知してもらってこそ、『飲料文化』の一端になると考えたから、と野田さん。
このあたりの考え方は大いに竹鶴氏の影響を受けている。

道産野菜を使ったカクテルの試みは、地元生産者やJA、小売りも巻き込んで大々的に告知されている。

「彼も『なぜ北海道でこのウイスキーを?』と常に自問自答していた。
私たちも『なぜ野菜を使うのか』を、自らに問いかけ続けました。
なにかしらプレゼンテーションを行う際、大切なのはこの『そもそも、なぜ』という観点だと思うんです。


結局、カクテルを通して生産者の思いを届けることがバーテンダーの役目だと思い至ったのですが、竹鶴さんはよく『天恵』という言葉を使って彼がこだわる『なぜ』を説明していましたね」


こうしてHBA北海道支部の仲間とともに始まったのが、カクテルフェアよりもより目的を明確化した「北海道産野菜を使ったカクテルコンクール」だった。
参加するバーテンダーは自らの店でそのカクテルを提供することをエントリーの条件にしたため、それぞれの店から「野菜カクテル」が拡散していった。


野菜をテーマにしたカクテルの物珍しさから、テレビのニュース番組でも取り上げられた。
第一回目の成功を踏まえ、道産野菜のカクテルコンペは少しずつ規模を広げていく。

「北海道産農産物を使った全国カクテルコンクール2014」で上位に輝いたカクテル。左は優勝した名取麻子氏の「Louve」、右は特別賞に輝いた滝川芽衣氏の「EZO小町」。「Louve」はトマトとイチゴを、「EZO小町」は小豆を使用している。

生産者とタッグを組んだ地産地消の町おこし。
身近なもので土地の魅力を伝えることで観光客が増え、行政が動き、そして新たな雇用が生まれることもある。
こうして故郷・北海道に貢献することも「街の外交官」たるホテル・バーテンダーの役目なのではなないか、そんな風に考えている。


このように、「本物」と「天恵」を貫いた竹鶴氏にならい北海道発の酒文化を広めるべく尽力する野田さんだが、一人のバーテンダーとしての有り様も竹鶴氏に大いに影響を受けたという。


「30代はただただお客さまに喜んでもらいたい一心で、多くのカクテルコンペに出場しました。
たくさんのシグネチャーカクテルを考案しましたが、いつしか愛されるカクテルのポイントは、素材や酒そのものへのリスペクトの気持を忘れないことだと理解しました。
素材の魅力をいかに深く、シンプルにわかりやすく映し出すことができるか、それがカクテルの醍醐味だと思います。


もちろん、そのカクテルを誰に飲んでもらうのか、どう感じてほしいのかを明確にすることも。
『誰に』『どんな』を明らかにすることでそこにはその一杯だけのストーリーが生まれ、そのストーリーが一杯以上の付加価値をもたらしてくれるのですから」

野田さんの故郷・小樽も一年で最も美しい季節を迎える。小樽の冬の風物詩、「小樽雪あかりの路」は運河にキャンドルをあしらった無数のガラスの浮き玉を浮かべ、雪景色とろうそくの灯りの幻想的な風景を楽しもうというイベントだ。今年は2月6日〜15日にかけて開催される。(写真提供:「小樽雪あかりの路」実行委員会事務局)

こうして野田さんがたどり着いたカクテルの愉しみ方が、著書にもある「大人酒」という考え方である。
素材の魅力をダイレクトに伝える味わいに加え、バーという非日常の空間でこそ得られる体験、価値観をもたらすもの。
そしてその一杯があることで、その時間がより楽しく、深くなるもの。


「いままでないもの・コトを造りだすこと。
酒に付加価値をつけること。
身近にあるものの価値を高めること。


考えてみれば全て竹鶴さんが一人でやってきたことなんですよね。
竹鶴さんに見守ってもらいながら、多くの人に余市と小樽、そして北海道の魅力を伝え、この地で生まれたお酒を楽しんでいただけたら。
今までも今も、そしてこれからも、そんな気持でカウンターに立ち続けます」

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SHOP INFORMATION

オーセントホテル小樽 キャプテンズ・バー
047-0032
北海道小樽市稲穂2-15-1
TEL:0134-27-8100
URL:http://www.authent.co.jp

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