
PICK UPピックアップ
「LIQUID」&「Cocktail Good History」:
個性的な新店が続々登場!奈良でバーホッピング。
- 前編 -
new #Pick up
永田祐也/Nagata Yuya/LIQUID、安中良史/Yasunaka Yoshifumi/Good History
文:Ryoko Kuraishi
国内外のジンを70種ほど揃える。
ユニークなカクテルがずらり。「LIQUID」はメニューを眺めるだけでも楽しい!
奈良の1軒目は奈良・生駒にある老舗バー、「Bar Charleston」出身の永田祐也さんが2023年12月に開いた「LIQUID」。
「Bar Charleston」はカクテルメイキングの技術もさることながら、オーナーバーテンダー、興津拓司さんの接客や人柄が素晴らしく、居心地のいい空間作りを学ばせてもらった、と永田さん。
「さまざまなバーに足を運ぶ中でいちばん居心地がいいと感じたバーが『Bar Charleston』でした。
どうしてもここで働きたいとオーナーに頼み込んだところ、1年越しで願いが叶い、修業させていただけることになったんですす」
「Bar Charleston」に勤めながらさまざまなコンペに挑戦して力をつけ、独立。
「カクテルで驚きを」という永田さん、その思いはユーモラスなカクテルネーミングにも現れている。
たとえば、甘さ控えめ、渋さと香ばしさが際立つ焙じ茶ジンとカシスリキュールを合わせる「社会人10年目のカシスソーダ」。
ミントの代わりにカイワレ大根を使う「カイワレ界隈のモヒート」、バーボン好きのギャングの朝のワンシーンをイメージしたという「グッドモーニングギャングスター」……etc。
メニューには、ジョークのようなネーミングなのに、構成をみるとそそられるカクテルがずらり。
「レシピの完成度は高いのに、クスッと笑えるネーミングが見つからなくてオンメニューしていないカクテルがたくさんある」というこだわりようだ。
「オープンして1年ちょっと、常連のお客さまが飽きないよう、いついらしていただいても何かしら新しい発見がある。そんなメニュー作りを意識しています」
“バーボン好きのギャングが、葉巻をふかしながらピーナッツバターをトーストに塗っているイメージ”という「グッドモーニングギャングスター」は、バーボン、アーモンドオルジェートにピーナッツバターの風味を効かせたカクテル。仕上げのスモークはギャングが燻らす葉巻から。アイススタンプもいち早く導入。
もう一つの特徴は、クラフトジンの品揃えが充実していること。
人気があるのは、華やかな香りが分かりやすい、ベルギー発の「CLOVER GIN」や、“奈良といえば”の「橘花GIN」。永田さんのおすすめは茨城県の五霞蒸留所が造る「PLOW」。
「現在は70本ほど揃えており、こちらを目当てに足を運んでくださる方も。もちろん、ジンのカクテルもお作りします。
即興で『ホワイトレディ』と『フランシス・アルバート』(ジンとバーボンウイスキー)を合わせた『ワイルドホワイトレディ』のようなカクテルを作ることもありますよ」
今年の目標は?というと、引き続きコンペへの挑戦をあげてくれた。
「コンペにはできるかぎり挑戦し、自分自身にもこの店にも注目が集まるよう、がんばりたいと思います」
「Cocktail Good History」の安中さん。
クラシックを大切にする「Cocktail Good History」。
続く2軒目は、2024年12月にオープンしたばかりの「Cocktail Good History」。
オーナーバーテンダーは「LAMP BAR」で腕を振るった安中良史さん。世界を飛び回る金子道人さんの不在時に店を任されていた手腕はお墨付き。
そんな安中さんのバーテンディングの軸はクラシックカクテルだという。
それもそのはず、大阪のオーセンティックバー「バー平松」でキャリアをスタートし、ここで約10年、クラシックカクテルをみっちり勉強した。
「LAMP BAR」では現代的にツイストしたカクテルを提供していたこともあり、両方の軸があることが安中さんの強みなのだ。
「個人的には、スピリッツやリキュールの個性や香りをきちんと引き出してあげるのがクラシックカクテルだと思っています。シンプルなレシピでありながら、いつ飲んでもおいしく、飲み飽きない。
作り手にとっては、作るたびに新しい発見があり、歴史やストーリーを深掘りしてみるのも楽しい。
そんなクラシックカクテルのイメージにあわせ、店内のしつらいや佇まいも、ヨーロッパのどこかの国の修道院や僧院を思わせる造りに統一しました」
ドーム型の天井が修道院か僧院を思わせる。
提供するカクテルも、クラシックの技法や考え方を大切にしつつ、奈良らしい素材を使うなど現代的なアプローチを取り入れている。
「奈良とゆかりの深いボタニカルとして、『万葉集』にも登場する日本最古の柑橘、ヤマトタチバナがあります。清々しい香りのなかには、サンショウを思わせるスパイシーなニュアンスがあり、とてもユニーク。
ヤマトタチバナの皮や葉をスピリッツに漬け込んだ自家製リキュールを使ってカクテルを提供しています」
大和橘スプリッツの「FLOWER」は、レモンチェロ風の自家製橘チェロと奈良の白ワインを合わせたもの。
ガーニッシュに添えたのはオレンジフラワーとタチバナの葉。飲み口はすっきり、ほのかにエルダーフラワーやカレンデュラの優しい香りがただよう飲みやすいカクテル。
安中さんの「ネグローニ」(左)はびっくりするほど飲みやすく、まろやかな味わい。自家製アペリティーボで作るネグローニもあり、好みを選べる。右はシグネチャーの「大和橘スプリッツ FLOWER」。自家製の橘チェロに奈良産ワインを合わせたスプリッツのツイストで、シャルトリューズやビターズを効かせた「HERB」もあり。無農薬栽培の大和橘の葉とピールを飾って。
その対比としておすすめしてもらったのが、クラシックカクテルの代表格であるネグローニ。
安中さんのネグローニは、びっくりするほどまろやかな、優しいネグローニだ。スタンダードレシピよりジンの分量は多いらしいのに、なぜ?!
「いろいろ研究・試行錯誤して、クラシックカクテル、とくにネグローニは入れる順番が重要だと思うようになりました。
はじめにベルモットとカンパリを混ぜておいてから、ジンと合わせる。そうすることで一体感が生まれ、アルコールのボディはあるのにアルコール感が控えめの、柔らかいネグローニに仕上がります」
そんな安中さんのクラシック談義も楽しい「Cocktail Good History」。2軒をハシゴして、まだ夕方!アペロの文化が息づいているのが、奈良スタイルの特徴なのだ。
進化する奈良、後編ではコーヒーを得意とする対照的な2軒――オープンしたばかりの「Bar Ripple」と、老舗の風格?!の「中田洋酒亭」をご紹介します。
後編に続く。