
DP LABOどりぷラボ
今回のお題:「テネシーワルツ」
〜Jack Daniel’s Inspiration Circuit Vol.4〜
#DPLabo
文:Drink Planet編集部 撮影:山下みどり
アメリカンカルチャーに精通したバーテンダーたちが、それぞれの解釈でジャックダニエルを掘り下げ、オリジナリティあふれるカクテルに仕上げる「Jack Daniel’s Inspiration Circuit」。
今回のキープロダクトには、力強いオークの風味とバニラやスパイスのニュアンスが際立つジャックダニエル シングルバレルが選定されました。
熟成前の原酒を、巨大な槽に詰めたシュガーメープル(サトウカエデ)の木炭で一滴ずつ丁寧に磨く「チャコール・メローイング」。
この製法により生まれる甘い香りとスムースな口当たり、メローな余韻がジャックダニエルの特徴ですが、なかでも究極の個性をもつといわれるのがジャックダニエル シングルバレル。
寒暖差が最も激しいバレルハウスの最上階で熟成された樽の中からテイスターチームが厳選したものだけを、ブレンドせずに瓶詰めしています。
だからボトルごとに異なる味わいを楽しめるんですね!
樽の個性をより際立たせるべく、アルコール度数はオールドNo.7よりも高い47%に設定されているのもポイントです。
左から「The SG Club」永峯侑弥さん、「3rd AVE.BAR」阿部央さん、「Jeremiah Tokyo」市川寛さん。撮影中も和気藹々とした雰囲気でした。ちなみに阿部さんが着ているのは、ジャックダニエルオリジナルのボウリングシャツ!
今回、カクテルを披露いただく3人にジャックダニエルの思い出を伺いました。
ジャックダニエルにまつわる個人的なエピソードを教えてください。
「ジャックダニエルが生まれた街、リンチバーグで飲んだ本場のリンチバーグレモネードが忘れられません」(市川)
「ジャックダニエルで思い出すのは、初めて勤めた横須賀のバー。ここのマスターはジャックコークが大好きだったんです」(永峯)
「クラブで働いていた頃、よく作っていたカクテルがジャックコークでした」(阿部)
「いまから20年くらい前の話ですが、アトランタに住んでいた兄とリンチバーグにある蒸溜所を見学したことがあるんです。
地元のバーにも出かけましたが、ジャックダニエルにレモン半分を絞ってちょっとだけコーラを注ぐという、ローカルの飲み方が印象的でした」(市川)
「僕の中でジャックダニエルといえば、15年前、初めて勤めた横須賀のバーのマスター。
横須賀といえばベースの街ですから外国人のお客さまも多いのですが、マスター含めみんなジャックコークを飲んでいましたね」(永峯)
「20歳くらいのときにクラブで働いていたんですが、そこでもみんなジャックコークを飲んでいました。
お酒の仕事を始めたばかりの僕は、『ジャックコーク』という固有名詞のドリンクがあるのだと思っていました(笑)」(阿部)
市川さんが撮影のために用意してくれた、ジャックダニエル仕様のレタリング。
さて、Vol.4のテーマは「テネシーワルツ」。
数あるテネシー州歌のひとつとして知られるテネシーワルツ、創業者ジャックダニエル自身も自分のバンドでその原曲となるワルツを演奏していたといいます。
“アメリカのクラフツマンシップの体現”と謳われるジャックダニエルの、ものづくりへの思いやこだわりをそのままボトルに閉じ込めたようなシングルバレルを、「テネシーワルツ」の調べに乗せてカクテルに表現していただきます。
「『テネシーワルツ』…… って、このお題、難しくないですか?みんなどうアプローチしたんだろう」(永峯)
「『テネシーワルツ』を耳にする機会もなかなかないですしね」(市川)
「ものすごくリサーチしましたね。リサーチしていたら戦後の日本のバーシーンのパイオニアに行き着いちゃって、なかなかエモかった!」(阿部)
みなさん、なかなか苦労されたよう。それでは3人のカクテルを拝見しましょう。
永峯さんのカクテル「Chocolada’s Waltz」
「『テネシーワルツ』はいろいろな歌い手に歌い継がれる聴き心地のいい歌ですが、実はオリジナル版の歌詞はけっこう切ないんですね。
(テネシーワルツを彼と踊っていたら、旧友がやってきたので彼を紹介した。2人はワルツを踊り出し、そのまま旧友に盗られてしまったというストーリー)
そこで歌に描かれたストーリーをなぞり、恋のはじめのワクワク感から終わったときの甘酸っぱい余韻までをフレーバーで表現してみました」
考案したのは、ジャックダニエル シングルバレルに感じられるフレーバーやニュアンスをひもとき、それらを引き立てる副材料で構成したカクテル。
フレッシュなパイナップル、香ばしいコーン、トロピカルで柔らかな酸と独特の発酵フレーバーを感じさせるクプアス(カカオパルプ)、メロウでどこか枯れたニュアンスをもつイチジクの葉……恋のはじまりから終わりまでの感情の移り変わりのように、ユニークな香りや味わいが重なり合います。
「ジャックダニエル シングルバレルは厚みがあるので、オールドファッションドやマンハッタンといったカクテルに向いていると思います。
レモンやライムといったパンチのある酸よりも、カカオパルプやパイナップルのように、角のない柔らかい酸を合わせるとバランスがいいですね」
阿部さんのカクテル「Waltz for Daisy」
「テネシーワルツ」を深堀りしていった阿部さんがたどり着いたのは、1948年に長谷川幸保さんが考案したカクテル「テネシーワルツ」。
「この年に再結成された日本バーテンダー協会で中心的な役割を果たした長谷川さんは、日本のバー文化の中興の祖。
偉大な先輩に敬意を表し、このカクテルと、ジェリー・トーマスのデイジースタイルのカクテルをアレンジして『Waltz for Daisy』を考案しました」
インスピレーション源はビル・エヴァンスの「Waltz for Debby」です。
「ビル・エヴァンスが幼い姪Debbyのために作った、優しさにあふれたこの曲に、4歳になる自分の息子への思いを投影しました。
ベースになる2つのカクテルをつなぐのは息子が好きなオレンジの味わい、香り。そこに伊勢屋酒造のビターリキュール、スカーレットを合わせます。
伊勢屋酒造が拠点を構える相模湖畔へ家族で出かけた思い出があり、スカーレットの香りがその時の記憶を呼び覚まします。
父のエモい心象を味わっていただければと思います(笑)」
「骨格がはっきりしているジャックダニエル シングルバレルはシンプルなレシピやクラッシュスタイルのカクテルと好相性。加水したときに香りがすっと入ってくる印象です。
しっかりとしたアルコール感やワイルドさが欲しいときはNo.7、クリアに、きれいにまとめたい時はシングルバレルと、カクテルに求める要素に応じて使い分けています」
ちなみに、ビル・エヴァンス・トリオによる伝説的なライブ音源「Waltz for Debby」が収録されたのは、これまた伝説的なライブハウス、ヴィレッジ・ヴァンガード。
ジャズミュージシャン御用達のこのライブハウスで、ビル・エヴァンスはジャックダニエルを飲んでいたそう。
つまり、ビル・エヴァンスとジャックダニエルの組み合わせは、彼の音楽と彼が愛したジャズバー、そこで生まれた数々のエピソードが交錯する、ジャズファンにとって特別なものと言えるでしょう。これまたエモい!
市川さんのカクテル「Improved Lynchburg Sour」
20年前、ジャックダニエルのお膝元・テネシー州リンチバーグで飲んだ本場のリンチバーグレモネードと、「Jeremiah Tokyo」のテーマであるジェリー・トーマスが謳った、インプルーブドカクテルを融合させた市川さん。
「リンチバーグの人々がよく飲んでいた、ジャックダニエル・ベースの甘酸っぱいレモネード。
テネシーで飲んだ思い出のスウィート&サワーの1杯を、ジャックダニエル シングルバレルでアレンジしてみました。
リンチバーグレモネードの甘酸っぱいテイストがさらにリッチに、奥深いものになっています」
「テネシーワルツ」はテネシー州の州歌ですが、優しい協調と切ないリリック、甘酸っぱいフレーバーがなんともぴったり。
ジャックダニエルの創業と同じ時代に活躍したジェリー・トーマスもまた、クラフトマンシップを何よりも大切にしたバーテンダーで、彼が謳った「インプルーブドカクテル」とは、ベースとなるカクテルに改良を加えて向上させたものを指します。
妥協することなくさらなる高みを目指し続けたジェリー・トーマスのバーテンディングとジャックダニエルのものづくりの精神はどこかリンクするところがあるようです。
通常、ジャックダニエル シングルバレルをカクテルにするときはシェイクではなくステアやビルドで作ることを意識しているという市川さんですが、今回は例外として、「テネシーワルツ」を聴きながら飲みたいサワースタイルのカクテルに仕立てていただきました。
「定番のNo.7よりも樽香やバニラ、スパイスのニュアンスが前面に出てくるのがジャックダニエル シングルバレル。
このフレーバーを際立たせるには、ビターズとシロップを加えるくらいのごくシンプルなレシピがいいようです」
「テネシーワルツ」というお題からさまざまなイメージやエピソードを膨らませ、シングルバレルの個性を引き出すカクテルを考案していただきました。
長い歴史に育まれた伝統の製法と独自に改良を加え続ける熟成環境から生まれる、ジャックダニエルならではの個性、味わい。
クリエイティブなカクテルのベースとしてのジャックダニエルのポテンシャルを、ぜひ体感してみてください。