ジャパニーズ、アメリカン、新興国……
2025年に注目のウイスキー・トピックは?
- 後編 -

PICK UPピックアップ

ジャパニーズ、アメリカン、新興国……
2025年に注目のウイスキー・トピックは?
- 後編 -

#Pick up

ジャック・チェンバース/Jack Chambers from「THE SCOTCH MALT WHISKY SOCIETY」

ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティ(SMWS)の新トップ、ジャック・チェンバースさんを迎える今月。後編では、2025年のウイスキーシーンで注目すべきキーワードを伺います!

文:Ryoko Kuraishi

世界中のウイスキー蒸留所とパートナー関係にあるザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティ(SMWS)だが、日本のトップを務めるジャック・チェンバースさんにとって、自分をウイスキーの世界に誘ってくれたジャパニーズウイスキーには個人的な思い入れがある。

「日本の蒸留所はどこも高い技術を持っていますが、職人のこだわりでもって細部にもこだわり、更なる高みを追求するところが日本らしいと思います。

『ジャパニーズ・ウイスキーの特徴はハーモニー』と言われますが、繊細なバランスにもそうしたこだわりが見て取れます。
ハイボール文化が根付いていることから、ハイボールに適したウイスキーからラグジュアリーなものまで、幅広いレンジが存在するのも魅力ですね」

ジャックさんにいま注目のボトルを紹介してもらった。「まずは日本限定のボトルから。いちばん左(カメのラベル)は『122.71 REWARD AFTER A DAY IN THE HILLS』。SMWSはネーミングも楽しいんです。こちらは『ライトピート』というフレーバープロファイルに分類される一本で、ハイランドの蒸留所で18年熟成されたもの。 左から2本目の鶴のラベルは『ディープ、リッチ&ドライフルーツ』カテゴリーの『1.290 MAGIC TRICK WITH A SLIDESHOW』。 地域はスペイサイド、熟成年数は12年。バタースコッチを思わせる甘い香りが特徴の、新しいスタイルのウイスキーです。 右から2番目は『18.71 グアバがアップルクランブルのプールにドボン』。この名前だけでどんなフレーバーか想像がつくはず(笑)。『ライト&デリケート』というフレーバープロファイルで、ジューシー&フルーティな香りと、シナモンやナツメグを効かせたアップルクランブルのような味わいが特徴。 いちばん右は『ピート』カテゴリーの『23.78 SMOKED CHILLI-DOG』。チリが効いたホットドッグの刺激的な味わいですが、余韻はより甘くフルーティ。ゴールデンシロップを思わせます。アイラの10年熟成です」

注目すべきは、アメリカンシングルモルト&新興国。

近年、日本各地にさまざまなクラフト蒸留所が誕生しているが、こうした背景からより多様なウイスキーが生み出されておくというのがジャックさんの見解だ。

「個人的に注目しているのは、9年前に住んでいたことがある野沢温泉の『野沢温泉蒸留所』。ジンもおいしいし、ニューメイクも良かった。

インターナショナルなメンバーが顔を揃え、他の蒸留所にはない設備になっている点に個々の個性を感じます。

材料の選び方も面白いですよね。どんなウイスキーになるのか楽しみにしている蒸留所です」

世界の中で注目するのはアメリカンシングルモルトで、特にこのジャンルの旗手と目されているシアトルのウエストランド蒸留所とテキサス州のバルコネス蒸留所は、ジャックさんをして「これまでに飲んだことのないようなウイスキーを造りだしており、シングルモルトの世界を広げてくれる存在」といわしめる。

「アメリカンウイスキーで言えば、昨年末にTTB(アルコール・タバコ税貿易局)が、アメリカン・シングルモルトウイスキーのカテゴリーを新たに設けると発表しました。

アメリカンシングルモルトが定義づけされましたが(※)、造り手たちはこのようなアメリカン・シングルモルトの純粋さを守りながら、より革新的なウイスキーを生み出していくはず。要注目のカテゴリーです」

※アメリカン・シングルモルトの定義は……
ウイスキーは、米国内でマッシング(糖化)、発酵、蒸留、熟成が行われること/ひとつの蒸留所で蒸留されること/160プルーフ(80度)以下であること/最大容量700リットルのオーク樽で熟成されること(焦がし有無の新樽、または使用済みの樽も使用可能)/80プルーフ(40度)以上にボトリングすること

シアトルのウエストランド蒸留所を見学した様子。

新興国の動向も見逃せない。

一方、新興国はどうだろう?

「フランスのシングルモルトシーンがおもしろくなっています。10年前にはシングルモルトの蒸留所は10ヶ所ぐらいしかありませんでしたが、いまや100以上あるらしい!

フランスウイスキーは歴史が短いからこそ伝統にとらわれないし、新しい穀物の使い方や製造方法を楽しめます。
たとえば、少しずつ日本のバーでも見かけるようになってきた『ドメーヌ・デ・オート・グラス』や『アルモリック』は味わいもいいですね。

アジアでは、昨年にタイ初となるシングルモルトウイスキー『プラーカーン』がローンチし、中国のウイスキー蒸留所も少しずつ増えています。

これまでになかった新興国のウイスキーを楽しみにしています」

世界各国に40,000人の会員を擁するSMWS。各地で会員向けのイベントが行われている。「今年、日本でさらに多くのイベントを開催したいと考えています」。

フレーバープロファイルに注目してみよう。

この数年で一気に多様化が進んだウイスキーの世界。飲み手の楽しみ方も広がっている。

「ウイスキーを楽しむ層が広がっているといいますが、以前、京都で開催したセミナーには、京都大学のウイスキーサークルの学生たちが参加してくれました。

大学生までがいいウイスキーへの情熱をもち、それを楽しんでいることに未来を感じます。

また、消費者も自分たちが消費するものに対して興味を持つようになり、製品の情報を求めるようになりました。

これは素晴らしいことで、メーカーも真摯に情報を開示していく努力が求められますが、一方でウイスキーに関して言えば情報に振り回されず、本来の魅力であるフレーバーに向き合っていただきたいとも感じます。

SMWSではあえて蒸留所名を明かさず、フレーバーの傾向ごとにカテゴライズしてボトルを提供しています。

現在、12種のフレーバープロファイルを設けていますが、好みのプロファイルさえ見つけることができれば、そのシリーズのなかで味の冒険をしていただける。

マニアックな愛好家も多いウイスキーの世界で、ビギナーの方におすすめの楽しみ方といえるでしょう。

難しいことは抜きにして、まずはウイスキーのフレーバーに集中してみてください。

通の方には、ボトルに記されている蒸留年月や熟成年数などを手掛かりに、ストーリーを深堀りする楽しみをご紹介したいと思います」

日本のSMWS 会員のために開催されたイベント。京都「Bar K6」の西田さんと福岡「 Bar Oscar 」の長友さんが登場してくれた。

今後はマニアックな勉強会やテイスティングイベントから、ビギナーも参加できるカジュアルなフードペアリングイベントまで、会員制度を生かしたイベントを幅広く企画していきたい、とジャックさん。

「バーテンダーのみなさんには、ぜひSMWSへ入会していただければと思います。新しい蒸留所のウイスキーを味わう機会が増えるだけでなく、コミュニティのなかでさまざまなバックグラウンドをもつ会員とつながるチャンスもあります。

こうしたコミュニティが、バーとウイスキー、双方の世界を活性化させると信じています」

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THE SCOTCH MALT WHISKY SOCIETY
非公開
URL:https://smwsjapan.com

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