Fairground Bar:街のコンシェルジュという
新しいバーのカタチ。
<後編>

PICK UPピックアップ

Fairground Bar:街のコンシェルジュという
新しいバーのカタチ。
<後編>

#Pick up

Kobayashi Nobuhide/小林信秀 from「Fairground Bar & Wine shop」

「ミカン下北沢」にオープンした「Fairground Bar」には、「アズザクロウフライ」の小林信秀さんがさまざまな仕掛けを施している。「BYO」をきっかけに街全体を盛り上げるなど、後編ではバー論から生まれた小林さんらしい戦略をご紹介。

文:Ryoko Kuraishi 撮影:Kenichi Katsukawa

ワインショップでおすすめしているデザートワイン3種。左から「シャトー・デ・ゼザール・キュヴェ フラヴィ」、「パッシート・ビアンコ・ヴェネト」、いちばんおすすめの「マッドパイ」。「マッドパイ」はオーストラリアの貴腐ワインの造り手が手がけるデザートワインで焼いたナシやリンゴ、熟したモモ、オレンジのハチミツ漬けのようなニュアンスを感じさせる。¥2,860。

現代バー論から考えた“余韻ビジネス”って?

10代からバー業界に身を置き、長くシーンを見つめてきた小林さんはバーシーンの変化を何度も間近にしてきた。

それでも近年のバーシーンほど短期間でダイナミックに変わったことはなかったという。

それはバーの主役が交代したことにあるようだ。

「ここ数年でスターバーテンダーが次々に現れ、彼らのカクテルを飲みにたくさんの人が集まるようになっていました。

けれど、コロナの影響もあって次の世代からスタープレーヤーが生まれづらい状況になっています。

そういったムーブメントの終焉と同時にお客さまがバーに求めるものも、スターバーテンダーとそのカクテルやレアなボトルから、本来のバーのありかたに戻ってきていると感じています。

つまり『バーに足を運びたい』という明確な目的があるというより、もう少し喋りたいとかもう一杯飲んで帰りたいとか、みなさんの興味が再び、余韻を楽しむことに向かうようになってきたということです」

ワイン担当の新宮瞳さん。ニュージーランドのワイナリーやニキヒルズワイナリーでワイン造りを学んだ。イギリスのワイン鑑定資格「WSET」レベル3をもつ。

そこで小林さんたちは、自分たちがバーで何かを新たに作り出すことよりも、バーの周りにある素敵なものをふくらませて盛り上げることに舵を切ろうと考えた。

「つまり、余韻を楽しむためにバーを使ってもらう。それがぼくたちの『余韻ビジネス』です」

その昔、現在のようにオンラインが発達する前はバーをコンシェルジュ代わりに使う旅行者がとても多かった。バーにはさまざまな情報が集まる。街の情報がほしければ、大抵のネタはバーで揃ったものだ。

「それと同じような機能をここで果たせないかと考えています。

友人と食事をしたいと下北沢に来る人たちが、駅の目の前にあるバーに立ち寄って一杯飲みながら情報収集する……そんなイメージです」

「Fairground Bar」ではおすすめの飲食店を紹介するだけでなく、お店の予約までをおこなう。。

街のなかでさまざまな店舗とつながって業種を超えた輪を作ることが街全体を盛り上げることになるからだ。

BYOの100ml用のパッケージ。ワインの料金に加えてパッケージ料¥110で販売。

BYO(ワイン持ち込みシステム)で他店舗とのつながりをつくる

街全体の盛り上がりを見据えて併設のワインショップで企画しているのが、「BYO( Bring Your Own)」というワイン持ち込みシステムだ。

来店した人が希望すれば飲食店を紹介して予約までを行う。同時にその店の料理に合いそうなワインを提案する。もちろん試飲も可能だ。

BYOのワインは量り売りとし、専用のパッケージ(100ml)もしくはボトル(375ml)に詰めて飲食店に持っていってもらう。

「お客さまは飲食店で料理とプロがお薦めする種々のワインのペアリングを楽しむことができる。飲食店側はバーを介して新しい客層を取り込むことができる。

そもそも持ち込みOKとしているので、あちらでテイクアウト商品を購入してこちらに持ちこんでいただく、というのもいい。

双方にメリットがある関係づくりを進めています」(ワイン担当新宮瞳さん)

バーテンダーの丸田恵利加さん。「樹上完熟フルーツの旬は短いので、いらっしゃるお客さまに『次はどんなフルーツだろう』と、次回を楽しみにしていただけるようなカクテルを提供したい」。

他店とのつながりに関しては、BYOだけでなくさまざまな業種とのコラボレーションも考えている。

たとえば近隣のラーメン店はここへ出前してくれる。パン屋と企画するのはデザートワイン×カンパーニュのペアリング企画。

コラボ先は飲食店だけではない。店の目の前にある書店とは本とワインの企画を進めているとか。

それぞれの店舗の強みを掛け合わせたコラボレーションを企画することはどちらもの魅力のアピールになり、エリアの活性化にもなる。

こういう取り組みのハブとなることで、従来にないバーを確立できると考えている。

昼バーを独占させていただきます!

もうひとつ、小林さんが進めているのが昼飲みである。

「Fairground Bar」は昼12時にオープンする。開業前は、早い時間帯はコーヒー利用がメインになるだろうと考えていた。

ところが蓋をあけてみたら、驚くほど多くの人が明るい時間帯にカクテルやデザートワインをオーダーするのだ。

「きっかけはやっぱりコロナですよね。営業時間短縮で多くのお店が早い時間に開けるようになり、飲み始めるのも前倒しになりました。

早い時間帯に足を運んでいただけるのは常連客の応援需要だと思っていましたが、どうやら間違っていたようです。

蔓延防止措置が解除になっていざウィズコロナの時代に突入してみて、この2年で昼飲みのマーケットが確立されたことを実感しました」

せっかく昼飲みが定着しつつあるのに、多くのバーが昼の営業から手を引こうとしている。

「馬場さんの名言、『プロレスを独占させていただきます』じゃないけど、みんなが夜に戻るなら、ぼくたちが昼バーを独占させてもらいます!」


小林さんのデザートワインの原風景は、「午後のひととき、ジャムとチーズ、そしてデザートワインをずらりと並べたロングダイニングテーブルに女性たちが集まり、楽しそうにおしゃべりしている」という、イタリアで目にしたシーンだった。

「以来、デザートワインは昼のお酒だと感じていた」という小林さん、東京でデザートワインを飲むシーンを新たに作ろうとしたとき、昼バーは限りない可能性を秘めている。

「長い午後、おしゃべりとデザートワインをバーで楽しむ。ここ東京で、そんなシーンを実現できそうです」

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SHOP INFORMATION

Fairground Bar & Wine shop
東京都世田谷区北沢2-10-20 D街区201 ミカン下北
TEL:03-3411-2739
URL:https://atcf.jp/fairground/

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