
PICK UPピックアップ
Bar×Bar×Bar WATARASE:
バーテンダー視点で考えた、WCIGSC攻略法。
- 後編 -
#Pick up
藤倉正法/Fujikura Masanori from「Bar×Bar×Bar WATARASE」
文:Ryoko Kuraishi
予選2日目。ステージパフォーマンスを行う藤倉さんと、テイスティングを行うジャッジ。
さて、2日間の予選を戦い抜いた藤倉さんの順位は、惜しくも9位。
決勝に進める6位との得点差はわずかに4点。なんと、4点差のなかに6、7、8、9位がひしめくという大激戦となった。
たった4点が足らず、惜しくも予選敗退となってしまったが、バーテンダーらしい冷静な振り返りで敗因を分析してくれた。
「今回のプレゼンテーションで最も高く評価されたのは、コーヒーの抽出技術や、スピリッツや副材料の使用方法、オペレーションやクリンネスに関わる『テクニカル』という項目です。
一方、パフォーマンスについてはプレゼンの印象をいま一つ良くすることができなかった。それが、点数があがらなかった原因です。
運悪くパフォーマンス順が1番目になってしまい、準備の時間も足りず、心の余裕がなかったのかもしれません。プレゼンの出来は納得できるものではありませんでした」
発表されたリザルト。予選ラウンドの激戦ぶりがスコアに現れている。
世界大会で求められたテイスト&パフォーマンス
「テイストについては、日本大会と世界大会では求められるものが違っていた印象です。
過去の経験から、日本大会ではコーヒー感が強く、正統派でわかりやすい味が好まれることがわかっていたので、そうした審査基準にあわせたレシピを作りました。
一方、世界大会の基準では、独創的で複雑な味わいであっても評価される可能性があると思いました。
準優勝したスイスのカクテルを味見させてもらったところ、おいしくてまとまりのあるカクテルでしたが、日本大会では評価されにくいかも、とも感じました。
世界大会と日本大会のジャッジ基準の違いは実際に経験してみないとわからないものですが、来年参加したいという方は、多少の基準の違いがあるかもしれないことを心に留めておいてほしいと思います」
コーヒーの大会ではジャッジの立ち位置が近い。「手元の一つ一つを細かくチェックされています。ちょっとこぼしただけでも『プロフェッショナルパフォーマンス』の減点につながります」。
「パフォーマンスについては、コーヒーを抽出して異なるカクテル2種類を2杯ずつ作るという内容に対して、10分という競技時間が短く、制限時間を超えると課される減点が大きいので、1秒の乱れもないパフォーマンスを行わなくてはなりません。
日本大会では味やフレーバーにフォーカスされることが多く、コンセプトの作り込みに関してはそれほど重要視されていない気がしましたが、世界大会ではある程度、コンセプチュアルな要素が必要でしょう。
また、コーヒーの大会とカクテルコンペでは、点数が出やすいパフォーマンスが違うと感じました。
カクテルコンペで見られるような、ダイナミックで情熱的なプレゼンはほとんど見られず、どの競技者も淡々と落ち着いたトーンでプレゼンテーションを行っていました。
競技時間がタイトなので、十分な”間”を作れないというのも感じました」
今年のファイナリストたち。優勝は韓国のSeung Chan Wi。4位インドネシア、5位台湾、6位香港と、アジア勢が活躍した。
メーカー系カクテルコンペとの違いは?
藤倉さんがWCIGSCに参加して感じたのは、メーカー主催のカクテルコンペとWCIGSCは勝手がまったく違うということだった。
メーカー主催の大会では、メーカーの担当者による手厚いサポートを受けられることが多い。
現地に持ち込める材料や機材、現地で使える機材、現地調達可能な食材について、メーカー経由で事前に詳細な情報を入手でき、その情報に基づいて綿密なプランニングを行うことができる。
「この大会については現地の運営サイドと直接、英語でやりとりを行い、準備しなければいけませんでした。
ホテルや航空券の手配から、会場までのアクセス、当日は何時に会場に入って何をするのか、バックヤードに電源はあるのか、どういう機材を使えるのか。会場で使う水はどういう水なのか、持ち込める食材も自分で情報を集め、持ち込めないものについては現地調達の方法をリサーチし、ロストバゲージ対策も考えなくてはいけません。
準備期間が3ヶ月しかないなかで事前の準備に追われ、そのなかで練習時間を捻出することが大変でした」
WCIGSC攻略の要は、事前の情報入手だが、これも一筋縄ではいかない。
「他国の参加者はみな、コーヒー業界に精通した通訳をつける、ロースターやプレゼン、渉外の担当を個別に設けるチーム体制を敷くといった対策に加え、過去のファイナリストをコーチとして雇っていました。
謝礼を払ってコーチをつけると有益な情報を手に入れられますし、実際、彼らのアドバイスがちゃんと点数に反映されるようです」
この大会を最後に、JCIGSCそしてWCIGSCから卒業することを決めている。こちらはJCIGSC2024の様子。photo:一般社団法人 日本スペシャルティコーヒー協会
「私自身は、自分で考え、自力で目指すゴールにたどりつくことが楽しいし、自分の成長につながると考えたのでコーチをつけずに乗り込みましたが、個人で参加していたのは私一人くらいだったかもしれません。
自分で考えることが大切だと思うので、安易にコーチングを受けることはおすすめしませんが、無料で情報は回ってこないということを理解しておくほうがいいでしょう」
この世界大会進出をけじめとして、JCIGSCへの挑戦から卒業することを決めている藤倉さん。
今後は、WCIGSC優勝を狙えるような、有望な若手バーテンダーを発掘し、サポートすることを考えているそう。
「『この人なら!』という、20代の有望株を見つけ、世界への挑戦をお手伝いしていきたいと思っています」
そして、この大会に挑む競技者に向け、こんなアドバイスをしてくれた。
「バリスタの大会はレギュレーションがかなり細かいので、しっかり読み込んでください。初出場の場合、レギュレーション違反を取られるケースが少なくない。
カクテルコンペとバリスタの大会ではジャッジの基準や求められるパフォーマンスが違うと言いましたが、まずは体験してみることです。
大会終了後は自分のスコアシートを見ながら何が良くて何がダメだったかを考察する。スコアシートの内容もカクテルの大会に比べてかなり細かいです。
出場して体験し、自身のパフォーマンスを冷静に振り返る先に、WCIGSCがあるのだと思います」
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